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見るトレ 〜 ビジョントレーニングとは?
☆ロサンゼルス五輪男子バレーボール金メダリスト
VOLLEYBALL MONTHLY   January 1984 (米国「月刊バレーボール」1984年1月号)
FEW AMERICANS CAN FOCUS ON VISION TRAINING (知る人ぞ知る「ビジョン・トレーニング」)
 
BY Jeffrey Hansen
 
見るトレ 〜 ビジョントレーニングとは?USA男子バレーボール・チームの選手達はあらゆる科学実験のモルモットとなってきた。検査されたり、心理分析されたり、そこらじゅう突かれたり、たたまれたり、引き伸ばされたり、バラバラにされたり、すべて進歩のため、つまり勝つためだという。もう十分。能書ではなく、実績が欲しい!こういった類のテストの売り込みには実際うんざりしていたようだ。特に「ドクター」という肩書は連中を神経過敏にさせるらしい。どうしてもサド&マゾショーの様な部屋の中で、フランケンシュタインのような怪物がたくさんの電極を手や足につけられている光景を連想させるらしい。
 
しかし、オプトメトリストであるDr.Don Getz とDr.Gary Etting 、それにDr.Robert Sanetの3人のオプトメトリスト達が、コロラド・スプリングスにあるアメリカ合衆国オリンピック・トレーニングセンターへ招待された時は少し違っていた。理由は「ビジョントレーニング」であった。果たして選手達はそれを必要とし、そして活用することができたのであろうか。すべて選手にとっては強制ではなかったのだが…。
 
ビジョントレーニングのゴールのひとつは運動選手が最高の状態でパフォーマンスできるように、その一瞬の差のタイミング力を身につけさせることにある。でも練習、決意、才能をもってしてトップに到達したエリート選手達は、今までにやったことがないことを試すことを敬遠する傾向がある。つまり自分達のこれまで築いてきた「勝利の方程式」を変えたがらないのだ。USAバレーボールチームの選手達も最初は容易にビジョントレーニングを受け入れなかった、それは次のような'迷信'が彼らの頭にあったからである;
 
○眼はカメラのように機能し、'悪いレンズ'はどうしようもない。
○1.2があれば、完璧な眼である。
 
そしてもうひとつ、
○私の眼はだいじょうぶ、悪いところなどありません、の過信。
 
ビジョン・トレーニングを得意分野とするオプトメトリストはこういった言葉をよく耳にしている。そしてこういったリアクションにはむしろ慣れているのだ。
 
視覚はそれだけで、私たちの環境において正常に動きまわるのに必要な80〜90%の情報を提供してくれる。視覚のプロセスでは、人間の眼に映ったものすべてが過去の経験として'土台'となり、現在見ているものが、こういったすでに記録された土台のデータと噛み合わせることができるかを照合する。もしうまくこれらが噛み合えば、人間は行動に移れるわけだ。この一連のプロセスは、例えばバレーボールでボールをスパイクヒットする時、すべて一瞬のうちに、しかも自動的になされなくてはならない。スパイクヒットというひとつの肉体行動へとつながるように、何十もの眼の「技術」によるビジュアル・プロセスが正常に機能しなくてはならない。視力が1.2あるということは、このうちの単にたったひとつのプロセスに過ぎないのであり、それは眼の中心1%の部分が、いかに鮮明に見えるかということだけである。たったそれだけである。
 
あまり選手達の興味をそそらなかったビジョントレーニングであったが、オリンピックでロシアに勝つがための執念であろうか、とりあえずスクリーニング(査定)をやったところ、4人の選手が他のチームメイトのレベルよりかなり劣っていることが判明した。驚くことに、この4人の選手達はすべてチームの中心となる選手達であった。Chris Marlowe 、Craig Buck、 Steve Salmons、そして Rich Duweliusの4人である。
 
皮肉なことにこれら4人の選手は全員1.2以上の視力があった。しかしいかに視力が良くても次のような問題があった。まず立体視、眼の追跡運動に問題があった。これにより見たものを統合したりすることが苦手になったり、体を動かしているときや、体のバランスをとろうとしているときに両眼をスムーズに動かすことができないでいた。また両方の眼をいつも抑制なしで活用することができていない問題もあった。脳とふたつの目ちょうど'Y字'で結んだような状態を考えてみよう。例えば緊迫したバレーボール・チャンピオンシップの第5ゲームなんかの非常にプレッシャーのかかった状態において、上方を見上げているときに片方の眼を'抑制'してしまう傾向があった。わかりやすく言えば、こういったプレッシャーが脳の回路に静電気を起こさせるようにはためき、片方の眼から入ってくる情報を取ることを否定してしまうのである。こうなってしまうと、例え一時的でも知らないうちに片方の眼でのみプレイしていることになる。そうすると両眼による眼の奥行き認識能力は、意に反してシャット-オフしてしまう。これがボールの空間における位置判断能力を阻害する。オプトメトリストたちはこの事実について非常に確定的であった。
彼ら4人はDr.Robert Sanetの診療所でビジョン・トレーニングを受けることに同意した。しかし、そう簡単にはいかなかった。少しの興味は示したのであるが、連中の反応はだいたい「ほー、フーン…」であった。でもSteve Salomnsだけは、このプログラムに対して、彼がバレーボール・コートで見せるのと同じ積極性で臨んだのである。Rich Duweliusも最初はなかなかこの話を'買わなかった'が、後に興味をもつようになった。しかし、残念ながらChris Marlow とCraig Buckは単発的に参加しただけで、結局途中で止めてしまった。
 
あまり知られていないのであるが、人間の視覚とバランスは神経で結ばれているのである。バランスの一部は内耳にある液によりコントロールされているのであるが、バランスコントロールのための神経のうち20%は眼からきている。しかもこの20%が、人間の体のバランスの85%をコントロールするのである。
 
見るトレ 〜 ビジョントレーニングとは?Dr.Sanetはこういった問題を持っていたSteve SalmonsとRich Duwelius にバランスと眼が同等に働くようトレーニングをおこなった。最初は簡単なものから始め、徐々に難しいものへと進んでいった。でも実際は6セッション目のトレーニングの後ぐらいから、やっと2人とも変化に気づき始めたぐらいであり、Chris Marlowe とCraig Buck が期待していたような一夜漬けの成功があったのではない。ウェイトトレーニングにおいても数回のセッションで、すぐさまターザンのような体になるわけではないのはご存知であろう。進歩はゆっくりとやってくる。特にSteve Salmons などは、3カ月間これといって大きな変化はなかったのであるが、ある日突然、大きな「違い」に気づいたのである。そしてその後、彼のゲームはビジョン・トレーニングごとにチューンアップされた。その証しとしてSteve Salmonsはビジョン・トレーニングを始めてから、ヒッティング・パーセントを確実に伸ばし続けた。実は彼らのような高いレベルの選手においては、ヒッティング・パーセントをその上向上させるなどということは、非常に稀なことなのである。
 
USAアシスタント・コーチTony Crabbによって編集されたヒッティング・パーセントのデータは次のようであった。Salmons : (4月4-10日), キューバツアー, 26% ; (4月23-28日), カナダ,22% ; (6月15-19日), フィンランド,36% ; (6月23-28日), ポーランド,38% ; (6月 12-16日), NOREGA, 60%; (8月1-7日), ブルガリアとの2試合, 36%; (8月8-13日), プレ・オリンピック, 47% ; (8月23-30日), ロシア, 38% ; and (9月15日), Salmons が MVP となった日本では55%であった。Duwelius はやや低く、キューバ, 18% ; カナダ, 30% ; ブルガリア, 43% ;そしてパンナム・ゲーム(8月16-29日)で37%であった。これらの数字の重要性は何であろうか。USAチームが35%かそれ以上でプレイしている時、85%(67分の61)のゲームに勝っている。30〜34%の時には、64%(11分の7)である。
 
Steve Salmons と Rich Duweliusに彼らがビジョン・トレーニングについてどう思ったか尋ねてみると、世界の最強の対戦相手に、今までこんなふうにプレイできたのは初めてだという。そしてこれが単なる偶然でないことを感じとっていた。Steve Salmons が的確に彼の経験を表現している。"Vision is like anything else. To get good at it, you have to work at it.""Training your eyes makes a lot of sense to me, but I also think it's for people who are willing to stick with it."(「ビジョン(視覚)もほかの体の部分と同じで、向上させようと思うならば磨きをかけなければいけない。その点ビジョントレーニングってのは実に道理にかなっていると思う、こつこつ着実にやる人間向きだ。」)
 
もしアシスタント・コーチのTony Crabbの思いどおりに事が進んでいれば、男子バレーのすべての選手が-特にChris Marlowe とCraig Buckも-ビジョン・トレーニングを受けていたであろう。さらにつけ加えてTony Crab が言った。「SalmonsとDuweliusが素晴らしい成績を残してくれたのはビジョントレーニングだけが理由かどうかはわからない。でも、彼等は小気味よい右上がりのグラフを残してくれた」「それに比べて他の連中の成績はジグザグで、まるで地震グラフのようだ。全員トレーニングを受けてくれていたらなあ…。ビジョン・トレーニングは絶対にプラスとなるし、実際皆必要としている。」
 
誰でもその気になれば遅すぎることはないのである。
 
訳)内藤貴雄, O.D.
 
※このUS男子バレーボールオリンピックチームは1984年のLos Angelesオリンピックで金メダルを獲得した。
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